研究者紹介

八田佳孝  氏 名 八田 佳孝(はった よしたか)
 所 属 数理物質系
 研究分野 素粒子・原子核物理学
 課題名 ゲージ・弦対応によるQCDの高エネルギー反応の研究
 研究室

http://www-het.ph.tsukuba.ac.jp/~hatta/index.html

 陽子や中性子、原子核は究極的にはクォークとグルオンから形成されており、これらの間の相互作用は量子色力学(QCD)によって支配されていることが分かっています。私の専門はアメリカ、ブルックヘブン研究所のRHIC、ドイツ、DESY研究所のHERA、スイス、セルン研究所のLHCといった加速器において行われている高エネルギー衝突実験のQCDに基づいた理論的解析です。例えば、HERAでの電子と陽子の衝突における断面積(散乱確率)や検出される粒子の分布などを計算することによって、陽子の相互作用や内部構造を解明することなどを目標としています。特に興味があるのは衝突のエネルギーが質量などの他のすべてのスケールよりもはるかに大きいいわゆるレッジェ極限で、この領域ではポメロンと呼ばれる真空の量子数を持った粒子が断面積の振る舞いを決定します。ポメロンの構造を理論的に理解することは長年にわたって研究されており、私は2つのアプローチからこの問題に取り組んでいます。まず、QCDから導かれる第一原理に基づいた摂動論ではエネルギーの対数によって増幅されたある種の高次項を優先的に足し上げる必要があります。しかしながらこの近似のもとでは断面積は実験値よりも大きくなりすぎるためにグルオン間相互作用に由来するグルオン飽和を考えなければならなくなり、その首尾一貫した定式化を目指しています。一方でレッジェ領域のある種の現象については結合定数が大きくなるために摂動論が全く使えない場合があります。そこで、強結合でも解析的な取り扱いができる超対称ヤンミルズ理論において高エネルギー散乱を考えます。この理論の魅力はそれがある種の背景場におけるストリング理論と双対関係になっているということです。この対応によりヤンミルズ理論の強結合領域におけるさまざまな物理量をストリング理論の摂動論によって計算することができるという通常不可能なことが可能なため、近年非常に注目を集めています。私はこの対応を使って、高エネルギーQCDの強結合領域の現象を理解したいといます。