研究者紹介

田中健太  氏 名 田中 健太(たなか けんた)
 所 属 生命環境系
 研究分野 生物多様性学
 課題名 時空間環境変動に対する、植物の生態学的・集団遺伝学的応答
 研究室 http://www.sugadaira.tsukuba.ac.jp/kenta/

遺伝学が進んでくると、壊しても実験室で異常が見られない遺伝子が半数近くにのぼることが分かってきた。これらの遺伝子は、野外生態系において何らかの機能をもっている可能性がある。一方、野外の生態学においてはこれまで主に表現型レベルの研究が行われてきた。そこで、生態学的におもしろく遺伝学にも有利なシロイヌナズナ属野生種を用いて、野外生態系における環境適応とその時空間動態を遺伝子レベルで明らかにしようとしている。
ミヤマハタザオ(Arabidopsis. kamchatica ssp. kamchatica)とタチスズシロソウ(A. kamchatica ssp. kawasakiana)は、セイヨウミヤマハタザオ(A. lyrata)とハクサンハタザオ(A. halleri)の種間交雑によって独立に生じた異質倍数体らしいことが分かっている。つまり、この2つの娘亜種は、親種からそっくり同じゲノムセットを引き継いでいる。にもかかわらず、ミヤマハタザオは多年草で、似たような緯度の地域でも標高30mから3000mまで分布するのに対し、タチスズシロソウは一年草で、湖岸・海岸の低標高帯に局在する。両亜種がこれほど異なる性質を持つのはなぜなのだろうか。また、ミヤマハタザオが、極度に異なる幅広い環境に適応できるのはなぜなのだろうか。ミヤマハタザオの低標高帯では、温暖化に関係する新たな自然選択が生じているだろうか。これらの問いに迫るため、生活史や標高適応に効く遺伝子の探索、対立遺伝子頻度の時空間変動、局所適応のレベルや生活史の適応的意義などを生態学・遺伝学統合アプローチによって調べている。

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