研究者紹介

増本博司  氏 名 増本 博司(ますもと ひろし)
 所 属 生命環境系
 研究分野 応用生物化学
 課題名 出芽酵母を用いた真核生物細胞の経時老化の制御機構の解明
 研究室 http://dpas.agbi.tsukuba.ac.jp/~h3k56/index.html

生物は時間とともに老化していき、最後にその寿命を終えます。過剰な栄養の摂取や、紫外線や染色体複製時に起こりうるDNAの変異の蓄積、細胞内に蓄積した活性酸素によって酸化によるタンパクの不活性化は細胞の老化を早める要因となります。細胞はこれらの要因を無毒化し老化の進行を遅らせる一種の老化の制御機構を備えています。しかしながらこの老化制御の分子機構が完全に解明されたわけではありません。
染色体中のクロマチンを構成するヒストンへの様々な翻訳後化学修飾(ヒストン修飾)はクロマチン構造の変化を介して様々な細胞内機能に関与しています。興味深いことにヒストン修飾は細胞の老化の進行にも関与していることがわかってきました。
私たちがこのヒストン修飾に着目しているのは、ヒストンの化学修飾を行う酵素を阻害剤などで制御することにより、ヒストン修飾を介する様々な細胞機能を間接的に制御できる可能性を秘めている点です。このことは細胞の老化に関与するヒストン修飾の付加もしくは除去を人為的に制御することで、細胞の老化の進行を遅延させる、あるいは老化に伴って進行する様々な病気の治療法の確立にもつながることが期待されます。
私たちの研究グループは遺伝学的•生化学的手法の豊富な出芽酵母を老化研究の生物モデルとし、DNA損傷修復および細胞の老化に関与するヒストンのアセチル化とその脱アセチル化酵素の解析を中心に、ヒストン修飾を中心とした老化制御機構の解明、およびヒストン修飾酵素による老化制御機構に対する上位の制御機構の解明をおこなっています。またマウスやヒトの培養細胞を用いて、ヒストン修飾を中心とした老化制御機構が出芽酵母だけでなく他の生物種でも普遍的に保存されているのか調べていく予定です。さらにヒストン修飾酵素の活性を制御する薬剤でヒストン修飾を制御することで老化制御機構の機能を間接的にコントロールし、老化に付随する病気の発症を遅らせるといった医学面での応用の可能性も探っていきます。