タイトル

本事業は平成19年〜平成23年度に展開し、終了いたしました。

新着情報

  • 2012年3月1日
    Wakate News Letter Vol 44を発刊しました
  • 2012年2月16日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第65回 世話人丹羽隆介
  • 2012年2月10日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第66回 世話人長谷川潤
  • 2012年2月2日
    Wakate News Letter Vol 43を発刊しました
  • 2012年1月5日
    Wakate News Letter Vol 42を発刊しました
  • 2011年12月27日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第64回 世話人谷口俊介
  • 2011年12月16日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第63回 世話人西丸広史
  • 2011年12月1日
    Wakate News Letter Vol 41を発刊しました
  • 2011年11月22日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第62回 世話人丹羽隆介
  • 2011年11月7日
    Wakate News Letter Vol 40を発刊しました。
  • 2011年10月6日
    Wakate News Letter Vol 39を発刊しました。
  • 2011年10月4日
    田中健太助教が取りまとめを行っている共同研究の内容が、信濃毎日新聞朝刊で紹介されました。
  • 2011年9月16日
    研究成果講演会(応用生物系)を開催いたします。
  • 2011年9月14日
    研究成果講演会(医学系)を開催いたします。
  • 2011年9月1日
    Wakate News Letter Vol 38を発刊しました。
  • 2011年8月22日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第60回 世話人Hall Damien
  • 2011年8月3日
    Wakate News Letter Vol 37を発刊しました。
  • 2011年8月2日
    野口恵美子准教授の研究発表が朝日新聞に掲載されました。
  • 2011年8月2日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第59回 世話人Hall Damien
  • 2011年8月1日
    丹羽隆介助教が日本分子生物学会「富澤純一・桂子基金」の第一回助成対象者に選出されました!受賞者発表について日経BTJジャーナル、朝日新聞に紹介記事が掲載されました。
  • 2011年7月21日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第57回 世話人Hall Damien
  • 2011年7月19日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第58回 世話人丹羽隆介
  • 2011年7月15日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第61回 世話人杉山智康・丹羽隆介
  • 2011年7月11日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第56回 世話人Hall Damien
  • 2011年6月21日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第55回 世話人Hall Damien
  • 2011年6月1日
    丹羽隆介助教が共著された『脱皮と変態の生物学ー昆虫と甲殻類のホルモン作用の謎を追う』が出版されました。
  • 2011年4月20日
    杉山智康助教の科学研究費補助金による研究成果が「The EMBO Journal」オンライン速報版で公開されました。
  • 2011年3月24日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第54回 世話人野口恵美子
  • 2011年2月3日
    丹羽隆介助教が平成23年度農芸化学奨励賞(日本農芸化学会)を受賞しました。詳細はこちら
  • 2011年2月15日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第52回 世話人西丸広史
  • 2011年1月20日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第53回 世話人丹羽隆介)(第51回 世話人長谷川潤
  • 2010年12月27日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。 (第50回 世話人丹羽隆介
  • 2010年10月9日
    丹羽隆介助教が日本農芸化学会関東支部2010年度若手奨励賞を受賞しました。詳細はこちら
  • 2010年10月4日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。 (第49回 世話人 Hall Damien
  • 2010年9月2日
    2010年11月8日〜9日 筑波大学計算科学研究センターに於いて開催の物理国際シンポジウム情報はこちら
  • 2010年7月12日
    三浦海雲記念財団の学術奨励金を三浦謙治助教が受けました。受賞の様子が2010年7月8日(木)の茨城新聞に掲載されました。
  • 2010年7月8日
    2010年11月8日開催の国際シンポジウムURL(日本語版英語版)をUPいたしました。
  • 2010年6月28日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。 (第47回 世話人 杉山智康
  • 2010年6月22日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。 (第46回 世話人 杉山智康
  • 2010年6月15日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。 (第45回 世話人 杉山智康
  • 2010年6月3日
    第62回日本細胞生物学会大会に於いて杉山智康助教が「日本細胞生物学会若手優秀発表賞」を受賞しました。
  • 2010年6月2日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。 (第43回 世話人 Hall Damien)・(第48回 世話人 丹羽隆介
  • 2010年5月27日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第44回 世話人 三浦謙治
  • 2010年5月20日
    2010年5月13日-14日開催致しました“若手フェスティバル2010 in 菅平”の様子をUPしました。
  • 2010年4月2日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第42回
  • 2010年3月26日
    第57回日本生態学会大会にて恩田義彦研究員(田中研究室)が ポスター賞(優秀賞)を受賞しました。(ポスターpdf) 詳細はこちら。
  • 2010年2月23日
    2009年11月18日・19日に開催致しました国際シンポジウムの様子をupしました。
  • 2010年1月20日
    若手イニシアティブセミナーを更新しました。(第40回)(第41回


トピックス

標高が高いほど遅咲きが進化!
(田中健太助教グループ)
田中(画像)

開化タイミングは、植物がどれだけ子孫を残せるかを左右する、重要な形質だ。ミヤマハタザオは標高30〜3000mの山に分布しており、生育環境が大きく異なっている。その中で、どのような開化タイミングを進化させているだろうか。田中助教のグループは、様々な標高の38集団で種子を採集し、それを実験室で栽培して開化タイミングを調べた。その結果、元の標高が高いほど遅咲きになるという明瞭な傾向が得られた。また、栽培初期に冬を経験させると開化が早くなるが、その効果は元の標高が高いほど大きかった。これらの性質は遺伝的な決まっており、標高に対する適応進化の結果だと考えられる。標高が低いところでは暑さの厳しい夏の前に繁殖を終えることが有利であり、標高が高いところではゆっくりと成長して二年目以降に開花することが有利なのかもしれない。本成果は、Journal of Ecosystem and Ecography誌に掲載される。Kenta, Yamada & Onda. Jou. Ecos. Ecog., In press (2011)
神経外胚葉のサイズ維持に転写因子Fezが関与している
(谷口俊介助教グループ)
谷口(画像)
動物胚の予定外胚葉領域は外部からのシグナルを受けなければ神経外胚葉へと分化する傾向を持つ。正常な発生過程においては、神経外胚葉は分泌性の非神経外胚葉誘導因子による影響をその阻害因子が抑制する領域にのみ形成される。各個体ごとほぼ一定サイズの神経外胚葉を形成するが、細胞外分子同士の拮抗が正確な領域サイズを生み出す仕組みは謎であった。生命環境科学研究科・下田臨海実験センターの谷口俊介助教グループは、ウニ胚を用いて、細胞内の転写因子であるForebrain embryonic zinc finger (Fez)がその機能を担っていることを発見し報告した。Fezの発現は神経外胚葉で最も早く発現する転写因子FoxQ2により胞胚期に誘導される。機能解析により、Fezは胞胚期に非神経外胚葉誘導因子として機能するBMP2/4シグナルを細胞内で強力に抑制することで、予定神経外胚葉領域のサイズを維持していることを明らかにした(図A, B; Fezの機能阻害により神経外胚葉サイズが減少)。本研究はこれまで細胞外分子同士の相互作用で説明されていた神経外胚葉サイズ決定のプロセスに、細胞内因子による補助が必要であることを示したものである。さらに、Fezが脊椎動物の前端部神経外胚葉に発現していることから他の動物においても同様の機能を担っている可能性を示唆している。本研究は、米国国立衛生学研究所(NIH)との共同研究によるものである。本成果は平成23年10月付けで英国発生学雑誌「Development」 に掲載された。(Yaguchi et al., 2011 Development 138: 4233-4243.)
アジア人における小児喘息疾患感受性遺伝子の同定
(野口恵美子准教授グループ)
野口(画像)
小児喘息などのアレルギー疾患は小児期に罹患する疾患としては最も頻度が高く、その対策は社会的にも急務の課題である。本研究では、日本および韓国の小児喘息患者のサンプルを用いた全ゲノム関連解析を行い、6番染色体に存在するrs987870およびHLA-DPA1*0201/DPB1*0901が喘息発症とかかわっていることを発見した。また今回喘息と関連が認められた遺伝子型はTh1タイプとして知られるリウマチやI型糖尿病に対しては抵抗性を持つことが報告されている。疫学調査から喘息等のアレルギー疾患はリウマチやI型糖尿病等と逆相関することが知られており、今回の成果はTh1/Th2免疫応答を遺伝子型により規定できる可能性を新たに示している。 本研究は、国立成育医療センター、理化学研究所、韓国Asan Medical Centerとの共同研究による。本研究成果は、PLoS Genetics に掲載され(Noguchi et al. Jul;7(7):e1002170, 2011)、朝日新聞においても紹介された。
リン酸の蓄積が塩ストレスの緩和に役立つ
(三浦謙治助教グループ)
三浦(画像)
高い塩濃度は植物の成長に阻害的に働き、ひいては収量の低下につながる。本研究ではSUMO E3 ligase の変異株siz1が塩ストレスに耐性になることに注目して、その機構の解明を行った。siz1変異株ではリン酸を蓄積することから、リン酸の蓄積によりイオンバランスの是正に働く可能性が示唆された。実際、siz1よりもリン酸を蓄積するpho2変異株でも塩ストレスに対して耐性を示すことが明らかとなった。これらのことから、リン酸の蓄積が塩ストレスの緩和に役立つことが示唆された。本研究は本研究科の三浦謙治助教(遺伝子実験センター) と古川純助教(アイソトープセンター)との共同研究による成果である。Miura et al., Planta, in press (2011)
圧力受容神経細胞の発生に必要な転写因子Shox-2を発見
(長谷川潤助教グループ)
長谷川(画像)

 脊髄後根神経節の知覚神経細胞には、痛覚神経細胞、圧覚神経細胞、固有覚神経細胞(筋肉の形を感知する神経細胞)の3種の神経細胞が存在する。これらは共通の神経前駆細胞より発生すると考えられているが、それぞれの神経細胞へどのようにして分化し、それぞれの神経細胞の特性を獲得するのかはほとんど分かっていなかった。今回、長谷川潤助教はデューク大学のFan Wang博士グループと共同で、ホメオボックス型転写因子であるShox2が圧覚神経細胞の特性獲得に関与することを発見した。知覚神経でShox2を欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作製・解析したところ、これらの神経細胞への分化が抑制された。また発生期の知覚神経細胞にShox2を過剰発現させたマウスを作製したところ、圧覚神経細胞の数が増加した。これらのことより、Shox2は知覚神経細胞の特性獲得に重要な働きをする転写因子であることが明らかとなった。本成果は米神経科学誌「The Journal of Neuroscience」5月4日号(2011)に掲載された。
進化的に保存された新規コレステロール代謝酵素の解明
(丹羽隆介助教グループ)
丹羽(110719)
コレステロールは、多細胞生物の脂質やステロイドの原料として必須であり、その代謝調節が適切に行われることは生命体の維持に不可欠である。今回、「次代を担う若手大学人育成イニシアティブ」の丹羽隆介助教および谷口俊介助教らは、昆虫および線虫のステロイド生合成経路に関与することが知られていたRieske型酸化酵素ファミリー DAF-36/Neverland ファミリーの機能を生化学的に追究した。そして、DAF-36/Neverlandがコレステロールの代謝を担う酵素であること、具体的にはコレステロールの 7,8 位の脱水素化を触媒して 7-デヒドロコレステロール (7dC) の生成を担う酵素であることを証明した。さらに、DAF-36/Neverlandのオーソログが棘皮動物から両生類までの後口動物にも存在し、その酵素活性も高度に保存されていることを解明した。本研究は、コレステロール代謝に関わる全く新しいタイプの酵素の発見を成したものであり、生物種を超えたコレステロール動態制御を理解する上で重要な意義を持つ。本研究は、東京大学および産業技術総合研究所との共同研究による。研究成果は、Journal of Biological Chemistry に掲載された(Yoshiyama-Yanagawa et al. 286: 25756−25762, 2011)。
脊髄の歩行運動ネットワークを構成する 新規抑制性ニューロンの同定と生理学的性質の解明
(西丸広史准教授グループ)
西丸110711
歩行運動の際の足のリズミックな活動パターンは脊髄の神経回路が生み出していると考えられているが、この回路を構成するニューロンの多くは未だに同定されていない。本研究では、抑制性ニューロンが蛍光タンパク質GFPを発現する遺伝子改変マウスを用いて、この神経回路を構成する抑制性脊髄介在ニューロンを新たに同定した。このニューロンは歩行運動様リズム活動の際にリズミックに発火し、その多くが後肢の関節を曲げる屈筋群の活動が終わるタイミングで活動していた。これは、このニューロンが足の関節の曲げ伸ばしのパターン形成に関与していることを示唆している。さらに腰髄の運動ニューロン群の近傍に局在するこのニューロンは、軸索を同側に投射し樹状突起を腹側および背側に広げており、運動出力と感覚入力情報を統合する役割を担っていると考えられる。本研究成果は、北里大学および群馬大学との共同研究である(Nishimaru et al. J. Neurophysiol. 106:1782-92,011)。
Proper formation of whisker barrelettes requires periphery-derived Smad4-dependent TGF-β signaling
(長谷川潤助教グループ)
長谷川110207
動物が、体のどこに刺激が加わったかを知るためには、身体の各所に伸びている知覚神経末端の位置情報が脳の中で正確に反映されていなければならない。この体性感覚地図の最も良く用いられるモデルが、マウスのバレルである。マウス脳内で見られるバレル(神経線維が集まる場所)はほおひげの1本1本に対応し、それぞれのほおひげの位置を脳内で正確に反映している。しかし、マウスの発生過程において、ほおひげとバレルの間に1対1の対応関係が形成される分子メカニズムはほとんど分かっていなかった。 今回、長谷川潤助教はデューク大学のFan Wang博士グループと共同で、TGFβ類のサイトカインシグナルが正確なバレル構造の形成に必須であることを報告した。TGFβ類はそれぞれのほおひげの周囲に発現している。TGFβ類の情報伝達を担う転写補因子であるsmad4を知覚神経細胞特異的にノックアウトしたマウスを作製したところ、脳内に伸びる知覚神経の中枢軸索が十分発達せずにバレルの形成が不全となることが分かった。このことから、知覚神経細胞は末梢からTGFβシグナルを受けることによって中枢軸索を適切に成長させ、感覚地図を形成していくことが明らかとなった。本成果は米科学誌「Proc Natl Acad Sci USA」2月7日号(2011)に掲載された。
ショウジョウバエの卵形成過程において、初期卵が栄養ストレスに対して素早く可逆的に応答する現象を発見
(丹羽隆介助教グループ)
丹羽0516
 多くの動物において、雌の卵形成は多大な栄養を卵(次世代)に投 資するプロセスである。それ故に、卵形成/卵成熟機構は雌個体を 取り巻く栄養環境に応じて柔軟に変化する。例えば、ショウジョウバエの雌を貧栄養条件下におくと、雌は次世代への投資よりも自身の生存を優先させるために、成熟卵をアポトーシスによって殺して体に再吸収する。雌がどのようにして栄養ストレスを感知して卵形成を制御するのか、その分子機構はほとんどわかっていない。今回、「次代を担う若手大学人育成イニシアティブ」の丹羽隆介助教、島田裕子研究員らは、卵母細胞に蓄積される母性因子の輸送をライブイメージングにより追跡し、未成熟卵は栄養ストレスに対してアポトーシスではなく、母性因子の輸送を抑制することで応答することを報告した。栄養ストレスに際して雌は卵巣内の全ての卵を除去するのではなく、栄養条件が再び回復した時に備えて未成熟卵 卵巣内に留める仕組みを持つと考えられる。本研究成果は、Yale 大学医学部の Lynn Cooley 教授との共同研究によって行われ、4月18日付けで米国発生学雑誌「DevelopmentalBiology」に受理された(Shimada et al., in press)
ICE1の点変異(S403A)により低温耐性が上昇!
(三浦謙治助教グループ)
三浦0513
 植物において低温ストレスは芽生え及び実をつける際に重大な被害をもたらし、植物が枯れたり実ができなくなる。本研究科の三浦謙治助教(遺伝子実験センター)は低温シグナル転写因子ICE1の機能調節に関する研究から、ICE1の403番目のセリン残基がICE1の安定化及び転写活性化に重要な働きを示すことを明らかにした。ICE1(S403A)形質転換植物ではICE1(WT)形質転換植物に比べて低温耐性を示した。ICE1は通常、低温シグナルの活性化に重要であるが、その一方でユビキチン化による分解を受けることも知られている。ICE1(S403A)においてはユビキチン化が阻害され、タンパク質も分解されずに残っていた。このICE1(S403A)の安定化が低温シグナルの活性化に繋がり、低温耐性をもたらしたものと考えられる。 Miura et al., Plant J , 67, 269-279(2011)
テロメア制御によりゲノム安定性を維持する新規タンパク質Sde2の発見
(杉山智康助教グループ)

 真核生物において、ゲノムの本体であるDNAは複雑に折り畳まれ、染色体として核内に存在している。生物の遺伝情報、すなわち染色体を安定に娘細胞あるいは次世代に伝えるために、染色体上にはいくつかの機能ドメインが存在している。そのうちの一つ、テロメアは染色体の末端に位置し、DNA末端の保護や染色体分配に重要な役割を果たしている。筑波大学大学院生命環境科学研究科の杉山 (杉岡) 梨恵研究員および杉山智康助教は、分裂酵母新規テロメア制御因子Sde2を同定しました。そして、Sde2はテロメア領域における遺伝子サイレンシングに必須なこと、有糸分裂および減数分裂時の染色体分配に必要なこと、DNA修復機構に関与することを解明しました。本成果は3月16日付けの「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載されました(Sugioka- Sugiyama and Sugiyama. BBRC, 406, 444-448)。
不要なmRNAを選択的に分解するしくみ
(杉山智康助教グループ)

真核生物の遺伝子の発現は、DNAのもつ遺伝情報をメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取る転写の段階だけでなく、転写の結果つくられたmRNA自体に対しても様々な制御がなされています。例えば、mRNAを細胞内の特定の場所に引き留めておくことや、正確につくられなかったmRNAを素早く分解するようなことが知られています。 筑波大学大学院生命環境科学研究科の杉山智康助教らは、モデル実験生物の一つである分裂酵母を実験対象に用いて、減数分裂期に特異的に発現するmRNAの分解に必要不可欠なタンパク質Red1を新たに発見し、これまで詳細な機構が不明であった減数分裂期mRNA分解機構のしくみを解明しました。このような研究成果は、減数分裂期mRNA分解機構の理解を深めると同時に、他の高等生物においても同様のシステム、すなわちmRNA分解による分化抑制機構の存在を示唆するものといえます。  本成果は3月16日付けの「The EMBO Journal」に掲載されました(Sugiyama and Sugioka-Sugiyama. The EMBO Journal, 30, 1027-1039)。
細胞の寿命を左右するDNA損傷の防止にはデアセチラーゼによるクロマチンの脱アセチル化が必要である
(増本博司助教グループ)
masumoto0517
放射線や化学物質等によって引き起こされるDNA損傷は時として細胞を死に至らしめる。また細胞が老化するにつれて、染色体の断片化や染色体腕の欠損など致死につながるDNA損傷が高い頻度で起こっている。このようにDNA損傷を防ぐことは細胞の寿命の維持に必要であると考えられる。今回、「次代を担う若手大学人育成イニシアティブ」の増本博司助教および八戸真弓研究員らは、出芽酵母ヒストンデアセチラーゼHst3, Hst4がクロマチン中のヒストンH3分子の56番目のリジンの脱アセチル化を介して、細胞が分裂する際に起こりうるDNA損傷の蓄積を防ぎ、細胞の寿命の維持に寄与していることを明らかにした。本研究は、ヒストンデアセチラーゼがヒストンの脱アセチル化を介してクロマチン構造変化に起因するDNA損傷修復を促進することで、細胞の寿命を維持していることを示している。この成果はヒトの老化関連疾病の発症を防ぐために、ヒストンデアセチラーゼが有力な創薬ターゲットとしてなりうることを示唆しうるものである。本成果は本学生命環境科学研究科および学習院大学との共同研究の成果である。本研究成果は分子生物学雑誌「Genes to Cells」(Hachinohe, et al., Gens to Cells, (2011) 16, 4, 461-472) に掲載された。
SIZ1によるオーキシン蓄積制御によりリン酸欠乏時における根の形態調節を行う
(三浦謙治助教グループ)

リン酸欠乏時に植物は側根の伸長を促して地表近くの根の表面積を増大させて、より多くのリン酸を集めるよう応答する。これまでの研究からSUMO E3 ligaseの1つSIZ1がこの応答に関わることが分かっていたが、どのような機構によって調節されているかが明らかではなかった。本研究科の三浦謙治助教(遺伝子実験センター)はこの調節が植物ホルモンの1つオーキシンの根先端蓄積の度合によって、リン酸欠乏特有の根の形態を示すこと、また、このオーキシンの蓄積制御がSIZ1によって調節されていることを明らかにした。またマイクロアレイの結果から、リン酸、オーキシン、siz1変異株で発現量が上昇する細胞壁関連遺伝子を同定した。本成果は米国の科学雑誌Plant Physiolに2011年2月付で公開された。 Miura et al., Plant Physiol 155, 1000-1012 (2011)
転写因子GTL1の変異による乾燥耐性上昇
(三浦謙治助教グループ)
三浦(画像)

植物において水の有効利用を行い乾燥耐性を向上させることが農業的にも重要な課題である。気孔密度は水有効利用と深い関わりがあるが、その分子機構は明らかになっていなかった。本研究科の三浦謙治助教(遺伝子実験センター)はPurdue大学のMickelbart博士と共にGTL1(GT-2 like1)転写因子が気孔密度調節及び乾燥耐性に関わっていることを明らかにした。gtl1変異株では約25%気孔密度が減少しており、このことが約25%の蒸散低下をもたらし、乾燥耐性を示した。GTL1はSDD1(stomatal density and distribution1)のプロモーターに結合して、SDD1の転写調節が行われていた。これらの結果から、GTL1は水有効利用における負の調節因子であり、その調節にはSDD1の転写抑制が関わっていることが明らかとなった。 Yoo et al., Plant Cell 22, 4128-4141 (2010)
rRNA 遺伝子クロマチンの新規制御機構の解明
(奥脇暢准教授グループ)

リボソーム合成は細胞の増殖には必須である。リボソーム合成の最初のステップは、rRNA遺伝子からrRNAを転写することである。したがって、rRNA遺伝子の転写調節を解明することは、細胞増殖のメカニズムを理解するうえでは非常に重要である。本研究では、rRNA遺伝子のクロマチン構造の制御に、ヒストンシャペロンNPM1が関与することを明らかにした。また、NPM1がrRNA遺伝子の調節にかかわるためには、NPM1のRNA結合活性と、rRNA転写因子であるUBFが重要な役割を担うことを明らかにした。遺伝子発現制御において、RNA分子が機能するメカニズムは報告が少なく、rRNA転写制御の新しい分子機構を提唱する成果である。本成果は2010年10月号のMolecular and Cellular Biology誌に掲載された。また、データの一部が表紙に使われた。Hisaoka et. al. Mol. Cell Biol. 30(20):4952-4964 (2010)
サリチル酸が低温シグナル伝達、低温応答に関与する
(三浦謙治助教グループ)

これまでに翻訳後修飾SUMO化に関与するSIZ1はICE1をSUMO化することによって低温シグナル伝達を調節することを明らかにしてきた。また、siz1変異株では植物ホルモンの1つサリチル酸が蓄積することが明らかとなっていたが、低温シグナルとサリチル酸との関連性について詳細な研究はなされていなかった。本研究科の三浦謙治助教(遺伝子実験センター)はサリチル酸の過剰蓄積が低温感受性を引き起こすことを明らかにした。またice1変異株においてもサリチル酸応答性遺伝子の発現が上昇していたことからSIZ1-ICE1を介した低温シグナル伝達はサリチル酸による調節が関わっていることが明らかとなった。この結果は、サリチル酸の投与又はサリチル酸合成阻害によって低温応答性を変化させられる点で、植物応用研究にも重要な知見であると考えられる。 Miura & Ohta, J Plant Physiol 167, 555-560 (2010)
繊毛遊泳型幼生の前端に存在する不動繊毛Apical Tuftの伸長に関わる新規因子を発見
(谷口俊介助教グループ)

多細胞生物のほぼ全ての細胞はその一生のうちに一度は繊毛を持つ。各動物種および細胞の種類により繊毛の持つ機能は多岐にわたり、その形態や形成メカニズムの全容解明がすすめられている。繊毛を用いて遊泳する水棲生物の幼生の多くは、前端部神経外胚葉領域にApical Tuftと呼ばれる「長くて」「動かない」繊毛を持っているが、その機能や形成メカニズムは不明であった。生命環境科学研究科・下田臨海実験センターの谷口俊介助教グループは、Apical Tuft特異的な「長さ」を制御する新規の因子AnkAT-1を単離し報告した。神経外胚葉の形成を担うFoxQ2の機能阻害胚を用い、マイクロアレイによってその下流で機能する因子を単離した。発現解析と機能阻害解析からAnkAT-1はApical Tuftの基底小体付近に存在し、その伸長に必要であることを示した。一方、高速度カメラと繊毛打波形解析ソフトによる解析からApical Tuftのもう一つの特徴である「不動」に関してはAnkAT-1以外の因子が制御している可能性を示した。AnkAT-1は繊毛遊泳型幼生を持つ生物全般に保存された分子であり、本研究成果から、他の生物においても特異的な長さを持つ繊毛の形成メカニズムの解明が進むことが期待される。本研究は、米国国立衛生学研究所(NIH)との共同研究によるものである。本成果は平成22年12月付けで米国発生生物学雑誌「Developmental Biology」 に掲載された。(Yaguchi et al., 2010 Dev Biol 348: 67-75.)
International Symposium on Celluar Signaling
(長谷川潤助教)
実験医学
2009年11月18日〜19日の2日間にわたり,細胞内外の情報伝達に関する国際シンポジウムが筑波大学にて開催された.国外招待者として,Vytas A. Bankaitis先生(University of North Carolina, Chaplel Hill, USA). Michael B. O'Connor先生(University of Minnesota, USA). また国内からは,伊藤俊樹先生(神戸大学).貝淵弘三先生(名古屋大学).黒田真也先生(東京大学).立花和則先生(東京工業大学).西田栄介先生(京都大学).根岸学先生(京都大学).松田道行先生(京都大学).宮澤恵二先生(山梨大学).吉田学先生(東京大学)の各先生をお招きした.シンポジウムの内容も充実したものであったが、本シンポジウムは文部科学者が進めているテニュア・トラックプログラムが主催となったユニークな試みであるため、まずはシンポジウム開催の背景から紹介したい.(以下省略)実験医学 Vol.28 No.6 (4月号)2010 Campus & Conference探訪記(詳細)
「子供」から「大人」への成長スイッチに関わる新規遺伝子を発見
(丹羽隆介助教グループ)
Developmental Biology
多細胞生物の形態形成は、空間的な決定のみならず、時間軸に沿って適切なタイミングで決定されることも重要である。しかしながら、時間軸に沿った発生タイミングを司る分子機構には未だ不明な点が多く残されている。今回、「次代を担う若手大学人育成イニシアティブ」の丹羽隆介助教、長谷川潤助教、波田一誠研究員らは、線虫 Caenorhabditis elegans を用いた研究から、核内受容体 NHR-25 が、幼虫から成虫への運命の切り替えに必須の因子であることを報告した。NHR-25 遺伝子は、線虫からヒトまで高度に保存されたファミリーであることから、本研究は動物界のおける発生タイミングの共通メカニズムに迫る成果であると考えられる。本研究成果は、筑波大学人間総合科学研究科およびチェコ科学アカデミーとの共同研究によるものである。本成果は5月25日付けで米国発生学雑誌「Developmental Biology」に受理された(Hada et al., in press)。

神経細胞の形を決める新しい細胞内シグナル経路の発見
(長谷川潤助教グループ)
FEBSLetters
神経細胞は1本の長い軸策と複数の高度に分岐した樹状突起を持つ。しかし、このような神経細胞の複雑な形態がどのように構築されるのか、その分子メカニズムには不明な点が多い。今回、人間総合科学研究科の長谷川潤助教と金保安則教授の研究グループは、低分子量G蛋白質Arf6の新しい標的蛋白質としてJNK-interacting protein 3 (JIP3)を発見し、活性型Arf6とJIP3の結合が神経軸索の分岐を抑える働きを持つことを明らかにした。 JIP3は細胞内物質輸送を担うタンパク質であるkinesinとも結合するが、活性型ARf6はJIP3とkinesinの結合を阻害することにより、分岐した神経突起への物質輸送を抑えると考えられる。本成果は5月20日付けでドイツの生化学雑誌「FEBS Letters」オンライン版に掲載された(Suzuki et al. FEBS Letters doi:10.1016/j.febslet.2010.05.020)。
陽子と陽子散乱の全段面積が陽子反陽子散乱の全段面積より大きくなることを予言
(八田佳孝助教グループ)
Jornal
スイス、セルン研究所の大型ハドロン衝突加速器(LHC)で陽子陽子衝突実験が開始され、歴史上初めてTeVという 高いエネルギーで陽子陽子衝突とテバトロン加速器での陽子反陽子衝突を比べることが可能になった。 これに先立ち、数理物質科学研究科の八田佳孝助教はアメリカPenn State大のAvsar、岡山光量子研の松尾らとともにAdS/CFT対応を用いて陽子陽子散乱と陽子反陽子散乱の全断面積の差を計算し、前者のほうが大きくなることを示した。 低エネルギーでは後者のほうが大きいことが知られており、従来の常識を覆す理論である。結果は2009年12月にプレプリントとして発表され、2010年3月11日付けでJournal of High Energy Physics 1003, 037 (2010) に掲載された。その後3月にATLASグループによる最初のLHCでのデータが発表され、我々の予言とコンシステントな結果が報告された。
Effect of heterogeneity on the characterization of cell membrane compartments:I. Uniform size and permeability
(Hall Damien助教グループ)
AnalyticalBiocheistry
Observations of the motion of individual molecules in the membrane of a number of different cell types have led to the suggestion that the outer membrane of many eukaryotic cells may be effectively partitioned into microdomains. A major cause of this suggested partitioning is believed to be due to the direct/indirect association of the cytosolic face of the cell membrane with the cortical cytoskeleton. Such intimate association is thought to introduce effective hydrodynamic barriers into the membrane that are capable of frustrating molecular Brownian motion over distance scales greater than the average size of the compartment. To date, the standard analytical method for deducing compartment characteristics has relied on observing the random walk behavior of a labeled lipid or protein at various temporal frequencies and different total lengths of time. Simple theoretical arguments suggest that the presence of restrictive barriers imparts a characteristic turnover to a plot of mean squared displacement versus sampling period that can be interpreted to yield the average dimensions of the compartment expressed as the respective side lengths of a rectangle. In the following series of articles, we used computer simulation methods to investigate how well the conventional analytical strategy coped with heterogeneity in size, shape, and barrier permeability of the cell membrane compartments. We also explored questions relating to the necessary extent of sampling required (with regard to both the recorded time of a single trajectory and the number of trajectories included in the measurement bin) for faithful representation of the actual distribution of compartment sizes found using the SPT technique. In the current investigation, we turned our attention to the analytical characterization of diffusion through cell membrane compartments having both a uniform size and permeability. For this ideal case, we found that (i) an optimum sampling time interval existed for the analysis and (ii) the total length of time for which a trajectory was recorded was a key factor. (Analyytical Biochemistry 2010, Vol.398, Issue 2, 230-244, and cover)
Nucleosome形成因子の機能解明
(奥脇暢准教授グループ)
GenestoCells
真核細胞のDNAは、ヒストンH2A、H2B、H3、H4それぞれ2分子からなるコアヒストン8量体の周りに巻きついてクロマチン構造を形成している。DNA複製によって新規合成されたDNAには、合成直後にクロマチン構造が形成される。また、DNAを鋳型とする転写や修復、組み換えの過程においてもクロマチン構造は一部ほどかれることが必要である。これらの過程において、ヒストンとDNAの相互作用を制御する因子の一つとしてヒストンシャペロンが知られている。本研究では、ヒト細胞におけるヒストンH2A-H2B二量体のヒストンシャペロンNucleosome Assembly Factor 1(NAP1)の機能解析を行い、NAP1タンパク質のサブタイプによるヒストンシャペロン機能の類似点と相違点を明らかにした。本成果は2010年1月号のGenes to Cells誌に掲載された。 Okuwaki et. al. Genes to Cells 15(1):13-27 (2010)
植物体及び植物細胞の発達にはサリチル酸が関わっている
(三浦謙治助教グループ)
Plant & Cell Physiology
翻訳後修飾因子SUMO (small ubiquitin-related modifier)は植物において環境ストレス応答、花成調節など重要な役割を担っている。タンパク質のSUMO化にはE3酵素SIZ1が重要な役割を果たしていることはこれまでの研究で明らかになっている。今回、SIZ1が植物細胞の伸長及び細胞分裂に関わっていることが明らかとなった。siz1変異株では細胞伸長が減少し、細胞数も減少していた。これらの異常が植物体発達の異常につながっていると考えられる。siz1変異株では植物ホルモンの1つサリチル酸が多く蓄積しているが、このサリチル酸量を減少させたnahG遺伝子導入株(siz1 nahG)では細胞伸長、細胞数、植物体の発達が回復した。このことから、サリチル酸の蓄積が植物細胞、植物体の発達に関わっていることが明らかとなった。 また、植物細胞の伸長にはXTH(xyloglucan endotransglycosylase/hydrolase)が関わっていることが示唆されているが、33のXTH遺伝子のうちXTH8及びXTH31がサリチル酸が増加したsiz1変異株でその発現が減少し、サリチル酸量が低下したsiz1 nahG植物体では、その発現が回復した。このことから、サリチル酸による細胞伸長減少にはXTH8及びXTH31の発現低下が関わっている可能性が示された。本研究は2010年1月付でPlant & Cell Physiologyに掲載された。Miura et al., Plant Cell Physiol. 51, 103-113, 2010
哺乳類の脊髄反回抑制回路による運動出力調節のシナプス基盤を解明!
(西丸広史准教授 グループ)
Jurnal of Neurophysiology
私たちヒトをはじめとする哺乳類の運動は、脳から脊髄までの中枢神経系にある神経回路網で生み出された信号が脊髄の運動ニューロンによって各関節を動かす筋肉に伝えられて生じることが知られている。しかし、こうした信号を生み出し調節しているとされる脊髄神経回路の作動機構の大部分は不明である。人間総合科学研究科の西丸広史准教授のグループは今回、中枢神経系の抑制性神経細胞が、蛍光タンパク質の発現によって可視化された遺伝子改変マウスを用いて、回路機能を正常に保ったままで運動ニューロンを直接抑制する神経細胞の電気活動を直接記録した。その結果、運動の際に、運動ニューロンへの入力の大きさに応じてこれらの抑制神経細胞の活動の大きさがダイナミックに調節されていることを単一細胞レベルで初めて示した。この成果は運動の際の神経回路からの出力を調節するシナプス・メカニズムの一端を明らかにしただけでなく、中枢神経系の損傷による運動機能障害からの回復法や、脳と機械をつなぐブレインマシーンインターフェイス開発のための生理学的基盤になると考えられる。本研究成果は、群馬大学大学院および(独)産業技術総合研究所との共同研究によるものである。本成果は米国神経生理学雑誌Journal of Neurophysiology に掲載された。 (Nishimaru et al. Inhibitory synaptic modulation of Renshaw cell activity in the lumbar spinal cord of neonatal mice. Journal of Neurophysiology, 103: 3437-3447, 2010.)
昆虫の発育に必須の新規ステロイドホルモン生合成酵素を発見!
(丹羽隆介助教グループ)
Development表紙
生物の発育が適切なタイムスケジュールに則って進行するには、個体全体で発育のタミングを同調させるためのホルモンの作用が重要である。昆虫の場合、こうした機能を担うホルモンの1つがステロイドホルモン「エクジソン」であり、その重要性は多くの先行研究によって詳細に明らかにされてきた。しかし一方で、その生合成制御を担う分子メカニズムには不明な点が多く残されている。今回、生命環境科学研究科の丹羽隆介助教と島田(丹羽)裕子学振特別研究員は、カイコとショウジョウバエを用いた研究から、エクジソン生合成経路に必須の役割を果たす新規酵素Non-molting glossy/Shroud(Nm-g/Sro)を発見した。そして、本酵素がエクジソン生合成経路の「ブラックボックス」と呼ばれる触媒ステップに関わることを明らかにした。「ブラックボックス」はエクジソン生合成の律速段階として機能していると想定されており、Nm-g/Sroの発見は今後のホルモン研究に重要なインパクトをもたらすと考えられる。本研究成果は、(独)農業生物資源研究所、東京大学、東京工業大学、九州大学、岡崎統合バイオサイエンスセンターとの共同研究によるものである。本成果は5月26日付けで英国発生学雑誌「Development」に掲載された(Niwa et al. Development 137: 1991-1999, 2010)。また、同号のハイライト記事「In This Issue」において紹介された(Development 137: e1202, 2010)。
外来送粉者と在来送粉者の競争を実験的に検証
(田中健太助教グループ)
Population Ecology
外来生物は、生物多様性を急速に減少させている主要因である。中でも、植物の花粉散布を媒介する送粉者が外来種となった場合、在来送粉者への影響を通じて送粉共生ネットワークを破壊することが危惧されている。しかし、種間競争の定量は技術的に難しく、外来送粉者と在来送粉者の競争を直接明らかにした研究はほとんどなかった。森林総合研究所の永光輝義研究員と本研究科の田中健太助教(筑波大学菅平高原実験センター)らのグループは、外来送粉者のセイヨウオオマルハナバチと在来マルハナバチの間の種間競争を検証するために、セイヨウオオマルハナバチの野外除去実験を行った。マルハナバチ数の時間変異と空間変異の両方を考慮したモデルにより、セイヨウオオマルハナバチの存在によって在来マルハナバチの数と体サイズが減少することが示され、外来送粉者と在来送粉者の競争が検証された。本成果は日本個体群生体学会誌「Population Ecology」に掲載された。Nagamitsu et al. Pop Eco 52:123-136 (2010)
発生段階の「幼さ」を制御する転写制御因子の網羅的解析を報告
(丹羽隆介助教グループ)

多細胞生物の発生過程が適切に進行するには、時間軸に沿った適切なタイミングで適切な発生イベントが起こることが必須である。しかし、時間軸に沿った発生タイミングを司る分子機構には不明な点が多く残されている。今回、「次代を担う若手大学人育成イニシアティブ」の丹羽隆介助教、川端孝一元研究員、波田一誠研究員らは、線虫 Caenorhabditis elegans の「幼さ」を規定する転写制御因子 HBL-1 に着目し、マイクロアレイを利用してその下流遺伝子の探索を行った。バイオインフォマティクスを中心とした解析の結果、複数のターゲット因子を同定し、さらにそのうちの1つの細胞外分泌因子 SYM-1 が HBL-1 依存的な発生タイミング制御に必須であることを示した。本研究は、幼虫から成虫へのスイッチングに関わる発生タイミング因子に関する、初めての網羅的発現解析の報告である。本研究成果は、筑波大学人間総合科学研究科および米国イェール大学との共同研究によるものである。本成果は平成21年12月9日付けで米国細胞生物学雑誌「Cell Cycle」に掲載された(Niwa et al. Cell Cycle 8: 4147-4154)
細胞分裂を調節する遺伝子の発見
(三浦謙治助教グループ)
Plant Cell
本研究科の三浦謙治助教(遺伝子実験センター)は理化学研究所杉本慶子ユニットリーダー、奈良先端科学技術大学院大学梅田正明教授らとともに、植物における細胞分裂に必要な新たな遺伝子HPY2 (high ploidy2)を発見した。細胞分裂の活性がとのように調節されているかは、農作物の生産性調節機構を知る上でも非常に重要な知識である。このHPY2の機能を失った植物体では、細胞分裂に必要なタンパク質が減り、分裂が正常にできなくなる。このHPY2はSUMO(small ubiquitin-related modifier)とその基質タンパク質の結合を促進するSUMO E3リガーゼであることを同定した。これまでSUMOによるタンパク質の修飾機構が、生命活動のいろいろな局面で必要とされることが明らかとなってきたが、実際に植物における細胞分裂を調節しているメカニズムを解明した研究は今回が初めてである。本成果は米国の科学雑誌Plant Cellに2009年8月21日付で公開された。 Ishida et al., Plant Cell 21, 2284-2297 (2009)
生物の分布限界の理解に向けた大きな一歩
(田中健太助教グループ)
PRSB
生物種の分布域には必ず限界がある。分布域の限界の形成機構として、適応の遺伝学的な限界と、適応を妨げる拮抗的な要因のどちらが重要なのかが近年活発に議論されている。Leeds大のW. Kunin講師、Sheffield大のT. Burke教授と本研究科の田中健太助教(筑波大学菅平高原実験センター)らのグループは、オウシュウミヤマハタザオの集団内と間の変異の量が、分布の中心から辺縁にかけてどのように変化するかを、遺伝・表現型・化学代謝物組成の3点から分野横断的に調べた。その結果、おおむね周辺部では変異量が少なくなること、表現型や化学物質組成の集団間の類似性は、遺伝的距離と空間的距離の両方によって決まることを明らかにした。この結果は、分布域の辺縁に行くにつれ、新たな適応が難しくなっている可能性を示唆する。本成果は英国王立協会紀要「PRSB」に掲載された。Kunin et al. Pro Roy Soc B. 276, 1495-1506 (2009)
がん遺伝子 c-fos の転写調節に関わる新規コアクチベーターを発見!
(福田綾助教グループ)
JBC
遺伝情報の発現は、発生、分化、ストレス応答などさまざまな場面で巧妙に制御されており、その多くは主に DNA から RNA へ情報を写し取る転写の段階で行われる。遺伝子の転写は、各遺伝子の調節 DNA 配列にアクチベーターが結合し、転写開始複合体に作用することにより活性化される。アクチベーターと転写開始複合体の間を仲介する因子はコアクチベーターと呼ばれ、アクチベーターの作用を増強し、調節の多様性を生み出す。今回、人間総合科学研究科(医学)の福田綾助教は in vitro 転写システムを用いた生化学的解析により、がん遺伝子として知られる c-fos の転写を活性化する新規コアクチベーターとして hnRNP R (heterogeneous ribonuclear protein R) を同定した。hnRNP R は、もともと自己免疫疾患の抗原の1つとして発見された RNA 結合タンパク質で、脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子 SMN がコードするタンパク質と相互作用することが知られている。本研究により、hnRNP R ががんや筋萎縮症などの疾患に関係することが示唆された。本研究成果は、 Journal of Biological Chemistry 284 (35), 2009, 23472-23480 に掲載された。
翻訳後修飾SUMO化によるアブシジン酸シグナル調節を解明!
(三浦謙治助教グループ)
PNAS表紙
 植物においてアブシジン酸は、種子の発芽抑制、植物の生育抑制に重要な植物ホルモンの1つである。このホルモンへの応答に異常をきたすと種子の形成に異常がおきたり、乾燥などの環境ストレスに適切に対処できなくなる。そのため、アブシジン酸シグナルを伝達する機構は適切に制御される必要がある。  本研究科の三浦謙治助教(遺伝子実験センター)とPurdue大のHasegawa教授のグループはアブシジン酸シグナルの調節に翻訳後修飾SUMO化が関わっていることを明らかにした。SUMO化とはSUMOタンパク質が基質タンパク質に結合し、基質タンパク質の機能を調節する翻訳後修飾の1つである。このSUMOの主要な役割として、転写因子の調節があげられる。アブシジン酸シグナル伝達において転写因子ABI5はアブシジン酸応答に重要な役割を果たしているが、ABI5のSUMO化は抑制的にABI5の機能を調節していた。本成果は3月31日付けで米国科学アカデミー紀要「PNAS」に掲載された。 Proc Natl Acad Sci U S A. 206, 5418-23 (2009)
電子陽電子消滅におけるハドロン生成のスペクトルをゲージ弦対応を用いて導出!
(八田佳孝助教グループ)
Physical Review Letters
高エネルギーハドロン衝突の終状態に観測される粒子の運動量分布や質量分布は熱分布(指数分布)でよく記述できることが経験的に70年代から分かっていたが、その場の理論に基づく導出はこれまでなかった。数理物質科学研究科の八田佳孝助教らは電子陽電子散乱をAdS/CFT対応を用いて解析し、 5次元AdS空間を伝播する仮想光子がハドロンに分岐する振幅を計算することにより、実際にハドロンの生成断面積が指数分布になることを示した。結果は2009年2月13日付けで米国物理学会の雑誌Physical Review Letters 102 062001 (2009) に掲載された。
利便性の高い新しいSNPジェノタイピング法を開発
(田中健太助教グループ)
Molecular Ecology Resources
塩基置換変異(SNP)のジェノタイピングは、遺伝子マッピングや集団遺伝学的解析の基本技術であり、様々な方法が開発している。しかし、製品化されているキットは数千座をタイピングしないと経済的に見合わない大規模なものか、数座のタイピングしか行えない小規模なものがほとんどで、生態学や進化学で想定される十〜百数十座のスケールで経済的になる方法は少ない。本研究科の田中健太助教(筑波大学菅平高原実験センター)とSheffield大のT. Burke教授らのグループは、PCR1反応で25座までのマルチプレックスSNPタイピングが可能な方法を開発した。用いる座やその組み合わせは、使用者が自由に変えられるなど、柔軟性が高い。また、分子生物学の中で非常に汎用性が高いマルチプレックスPCRを安価に行うための技術革新も報告されている。本成果は「Molecular Ecology Resources」誌に掲載された。Kenta et al. Mol Eco Res 8, 1230-1238 (2008)